General Museum

色の現実_四角[ジョセフ・アルバース]の外

General Museum Collection|Actuality of Color _ Outside the Square [Josef Albers]
2023.10.7–10.23

この紙は赤と青でつくられた

色彩は非物質的な示差的システムのようなものではなく、物理的なエネルギーだ。太陽から届くエネルギーは主に可視光であり、色が地表のあらゆるものを発熱させている。葉緑素と呼ばれる色素は不要な緑を周囲へと反射し、赤と青によって炭水化物を合成する。木材を構成する炭水化物であるセルロースは色によってつくられる。そして木材のセルロースによってこの紙はつくられた。また炭水化物の酸化によって活動する私たち動物も色彩が動かしている。

色とはなんだろうか。ジョセフ・アルバースの色彩論は物理的な事実と心理的な効果の齟齬を出発点としている。たしかに、色は相互作用の中で常に変化し続け、一義的な対象として固定することはできない。しかしそこから、色を非物理的で心理的な現象であると早急に結論づけてはいけない。そうした態度は色を心理的、主観的、観念的な世界に閉じ込めてしまう。問題はあくまでも物理的な事実と心理的な効果の齟齬であり、物理と心理が交差する地点で色の正体を捉えなければならない。

私たちは波長380nmから770nmの電磁波を色として知覚する。そして地上のほぼすべての活動を支えている太陽エネルギーの正体はその可視光領域をピークとする電磁波に他ならない。葉緑体は赤と青のエネルギーを炭水化物のかたちで蓄積し、それを利用して動物は体を作り活動している。それはまた様々な機械を動かす燃料ともなっている。つまり色を見ることは自分自身や世界を動かしているエネルギーの流れを総合的に知覚することでもあるのだ。

アルバースは複数の絵を相互に接近させたり、自然環境の中に設置する試みを行っている。つまり色の相互作用は決してひとつのカンヴァス上や心理の領域で完結するものではないのだ。色は太陽と生物の相互作用を生み、心理と物理の相互作用をつくりだす。眼球は赤と青のエネルギーによって活動し、カンヴァス上の色彩と緑の木々の相互作用を知覚する。そしてそれら様々な対象に反射してやってくる色彩を通してひとつの太陽を見るのだ。そうした閉じることのできない相互作用の中ではじめて、本当の色彩は経験されるだろう。


場所
星槎国際高等学校 八王子学習センター内の森林
東京都八王子市元八王子町2-1419
JR・京王線高尾駅よりバス10分
*駐車スペースが満車の場合は近隣の駐車場をご利用ください。
*展示場所は山林になりますので、適した服装でお越しください。

日時
2023年10月7日(土)~10月23日(月)火・金曜休
12:00~17:00(水・木曜は13:00~)


ジェネラル・ミュージアム コレクション展

色の現実_四角[ジョセフ・アルバース]の外

ドイツ出身のジョセフ・アルバース(1888 – 1976)は、色の相互作用を研究し、豊かな色彩を持つ抽象画を生み出した美術家だ。特に正方形を入れ子状に重ねた 《正方形へのオマージュ》 シリーズは彼の代表作であり、色彩の研究が身を結んだものだと言えるだろう。同時に彼は美術教育者としても名高く、バウハウス、ブラック・マウンテン・カレッジ、イエール大学で教鞭をとった。彼の教室は、ロバート・ラウシェンバーグやサイ・トゥオンブリ、ケネス・ノーランドら後のアートシーンをつくった美術家たちを輩出している。

アルバースは色彩論においても、教育活動においても、法則や体系の知識よりも実践的な経験を重視した。色の研究を色彩システムを学ぶことからはじめてはいけないと彼は言っている。ひとつの色は他の色との相互作用の中で常に異なる解釈を生じさせ変化し続けるので、色の効果を法則によって予想することはできないのだ。それは実験によってしか確かめられない。教育においても同様だ。学ぶ経験は定まった法則を覚えることではなく、その都度の経験の中でこそ得られるものだ。

アルバースはひとつの対象が複数の解釈を生む例として次のようなおもしろい実験を紹介している。冷たい水につけておいた右手と、熱いお湯につけておいた左手を同時にぬるいお湯につけるのだ。するとその同じお湯を右手は熱いと感じ、左手は冷たく感じる。ここで重要なのは、解釈の多様性が、人それぞれ感じ方が違うというような主観の原理にもとづくものではないということだ。お湯の実験では、同じもの(お湯)を知覚する主観的な感覚にこそ矛盾と分裂が生じている。主観的な解釈の投影には収まらないものが目の前に現れ、それが認識の枠組みを作り直すことを要求する。そこにはじめて経験というものが生じるのだ。

アルバースの教育は、ものの「正しい」見方を教えることとは無縁だった。彼はものとの、その都度の相互作用の中から新しい経験を生み出していく生きた教育を目指した教育者だった。本展覧会はユニークな教育の実践現場でもある星槎学園の森をお借りして開催される。またこの場所は新制作座のコミューンが息づいている場所でもある。さらにここに並ぶ建築群を設計したRIAのリーダー山口文象はアルバースと同じくヴァルター・グロピウスの教え子だった。こうした場所とアルバースの芸術や教育の理念の間には様々な相互作用が生じるだろう。

アルバース自身も試みたように、屋外に展示された画面は、環境との間にさまざまな相互作用を生みだす。 《正方形へのオマージュ》 の入れ子状の構造は、絵の内側へだけではなく絵の外側へも注意を導くものだ。絵画への注目が周囲の環境への意識を阻害するのではなく、逆に絵画の色彩がインデックスとなり、環境の様々な要素を意識化させる。本展覧会では、そうした開かれた相互作用の中でさまざまな出会いの経験が生じることを期待したい。

色の現実_四角[ジョセフ・アルバース]の外


Josef Albers
Josef Albers
自然(偶然)による正方形へのオマージュ
自然(偶然)による正方形へのオマージュ

主催|ジェネラル・ミュージアム、アート・ユーザー・カンファレンス
運営|アート・ユーザー・カンファレンス、中島水緒
協力|公益財団法人八王子市学園都市文化ふれあい財団、星槎国際高等学校 八王子学習センター
設営協力|藤川琢史、山岸武文
助成|公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京

本展は星槎国際高等学校 八王子学習センターの協力のもと、八王子芸術祭提携事業として開催します


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Contact|anartuser@gmail.com