可能世界

Possible worlds
1円玉に映る深宇宙
  • Intension
    起こり得る世界、予想できる世界
  • Extension
    量子状態、宇宙の地平線の向こう、非常に遠い過去と未来

宇宙に生命が偶然誕生する確率は、私たちが観測可能な宇宙の範囲では起こりえないぐらい低いという。すると私たち生命の存在は、ほとんど起こりえない可能性を実現するほど宇宙が広いことを示唆しているのかもしれない。偶然には生じそうもない複雑なパターンもそれが有限な組み合わせである以上、いつかどこかで実現する。

例えば16777216色で画素数が3264 x 2448ピクセルの表現力があるデジタルカメラがあったとすると、そのカメラが写せる画像パターンの数は16777216の(3264 x 2448)乗となる。つまり、ランダムな画像パターンの生成を16777216の(3264 x 2448)乗回繰り返せば、そのカメラで写すことのできる全ての景色を作ることができる。その画像群には、遠い昔に滅びてしまった生物の写真も、まだ生まれていないあなたの子孫の顔写真も含まれている。

膨張していくこの宇宙では、光の速度で到達できる範囲が事象の相互作用が生じる限界となる。それは、この宇宙で実現できる世界のパターンが有限であることを意味する。物理学者マックス・テグマークの計算によれば、10の10の11乗メートル向こうにはこの世界と全く同じ世界があって、自分と全く同じ人物が、全く同じ行動を取っているそうだ。そしてこの世界ともうひとつのこの世界の間では、起こりうるすべての可能性が実現している。

光の速度でも到達できないそうした可能世界に行くためには、物理的な連続性を超えたテレポーテーションを行う必要がある。例えばSFのスタートレックの転送装置のようなものを考えてみよう。地球にいるあなたの体を素粒子レベルでスキャンしながら分解し、そのパターンのデータを光(電磁波)で送信し、月の上の素粒子で同じパターンを再構成する。すると、あなたは地球の上で意識を失った次の瞬間に月の上に立っていることになるだろう。たとえ体を構成する素粒子に連続性がなくても、そこでは実質的な瞬間移動が実現している。可能世界にはあなたの体のスキャンデータが届かない点が問題となるように思われるかもしれない。しかしこの宇宙ではあらゆる可能性が実現しているのだとすれば、わざわざ月の上にあなたを再構成する必要はない。月の上にたっているあなたもどこかには必ず存在するからだ。

先ほどの転送装置についてもう一度考えてみよう。あなたの体を分解する機能だけが働かずに、月の上にもうひとりのあなたが再構成されてしまったとする。月の上のあなたは転送が成功して月にやってきたと思うだろう。しかし地球のあなたにとっては転送など実現しなかったし、月面上に現れた人物を他人にしか感じないだろう。このトラブルを解決し、転送を成功させるために唯一必要な条件は地球のあなたを消滅させることだ。

消えゆくあなたが月の上に向かうのか、あるいは、あの世に向かうのかは信仰の問題となる。私たちは、映画やアニメーションのように異なるコマの断続を連続しているように解釈することができる。そして現実の世界が本当に連続しているのか連続しているよう解釈しているだけなのかはわからない。いずれにしても、この世界のあなたが消滅した瞬間、あなたは可能世界にテレポートしたと解釈することはできるだろう。