廃工場横にあるその鉄門を私たちが通り抜けることはない。門の向こうにかつて存在したはずの行き先がすでに失われてしまっているからだ。本来は場所の区画を示すはずの門がここでは逆に区画の曖昧さを意識させている。門とは通常、通過するか否かの選択を私たちに迫る。しかしこの鉄門の前では選択するという行為そのものが問い直される。「あれか、これか」という実存的な脅迫を振り払い、カフカの『掟の門』に登場する男のように、選ばないことこそ真の掟に従う方法だったのではないだろうか。原初の選択とは、アダムに神の法則に背く「自由意思」という幻の存在を信じ込ませる罠だったのかもしれない。
酸化した鉄が膨張し、黒い門の表面を向こう側から押し出している。それは人間が区画した土地に対する自然からの啓示だ。自然はやがて門を朽ちさせ、すべての境界と選択肢を消し去ってしまうだろう。