The Tomb of Christ: Rozabal キリストの墓:ロザバル

The Tomb of Christ: Rozabal
  • Maker
    ミルザ・グラム・アフマド
  • Date
    1899–
  • Medium
    棺桶、遺体
  • Location
    Khaniyar, Srinagar, Jammu and Kashmir 190003.

《トマス行伝》には、インドへキリスト教を伝えた使徒トマスが、イエスの双子の兄弟であることが示されている。「トマス」はアラム語で「双子」を意味する呼び名であり、彼の本名はユダである。インドの王はトマスを娘の元に案内したが、彼女に語りかけたのは、トマスのふりをしたイエスだった。「私はトマスとも呼ばれるユダではありませんが、私は彼の兄弟です。」

単細胞生物の場合、分裂した2つの細胞は切り離されて別々の個体となる。一方、私たち多細胞生物の場合、2つに分裂した細胞は表面がくっついたまま、ひとりの私となる。しかしちょっとした刺激によって、分裂した2つの細胞が切り離されることがある。すると2つの細胞は別々の個体となり、一卵性の双子が生まれることになる。自身のコピーをひたすら増殖させる単細胞生物にとって、死と誕生は未分化だ。分裂のたびに死ぬとも言えるし、再生して無限に死なないとも言える。多細胞生物の成立とともに個別的なアイデンティティが成立し、死が誕生と分化したのだ。

イスラム教の聖典《コーラン》には「神はマリアの子とその母をしるしとなし、泉の涌き出る安静な丘の上に住まわせた」とされている。アフマディー教団の創始者ミルザ・グラム・アフマドは、その「安静な丘」がカシミールであると考えた。1899年の著作で彼は、カシミールのロザ・バル廊にある2つの墓のひとつがイエスの墓であるとした。「マリアの子」は十字架では死なず、インドへ向かったのだ。イエスはユズ・アサフとして120歳まで生きてロザ・バルに埋葬されたという。そしてキリストの魂はアフマドの肉体を通して再臨したのだ。

イエスの死と復活のミステリーは、生物の個別的なアイデンティティという概念を曖昧にする。精神、肉体、名前、イエスの何が死んで、何が復活したのだろうか。トマスのふりをしたイエスとイエスのふりをしたトマスをどのように区別できるだろうか。ミステリーの核心には、2つに分裂した細胞、2つに分裂した肉体こそが個別的なアイデンティティを発生させるという神秘の原理がある。魂は、物と物の間の見えないリンクから発生するのだ。

インドとパキスタン、ヒンドゥーとイスラムの2つに分裂した土地をカシミールはくっつけたままにしている。カシミールの《キリストの墓》は、精神、肉体、名前を一致させ、宗教、民族、民族を一致させようという絶望的な試みに抗う場所なのだ。