金木の廃屋

The Deserted House in Kanaki
  • Maker
    大工(建築)、雪、風、日光(風化、退色作用)
  • Date
    2021
  • Medium
    木材、顔料
  • Location
    青森県五所川原市金木町菅原429-2

パリ市内を巡ることでフランス旅行をするように、津軽平野を巡ることで宇宙を旅することはできるだろうか。物理的な事実として私たちは、津軽のコンビニで買い物しながら、間違いなく銀河のただ中を秒速230kmの速さで周回している。しかし私たちは切り分けられた小さな部分のみに注目してして、総合的な視野を失ってしまう。総合的な見晴らしは、無数の対象に妨げられているのだ。

いたるところに吹き飛ばされた壁のある金木の廃屋は、近代建築のように視覚的に透明なだけではなく、物理的な透明性を備えている。玄関から屋内を覗くとそこに岩木山が見える。その内側は、外側へと視線を誘導するのだ。《金木の廃屋》はいわば、津軽平野に見晴らしを提供する建物であり、世界への総合的な視野を展示する美術館だ。そこでは、家のもっとも内側に隠された場所であるトイレの穴の中に星空を見ることもできるだろう。

一方で、ひらけた見晴らしを妨げるように設置された看板は、現実の中に絵画のような視覚的空間を作りだしている。古い看板の手前に貼られた看板は縮小された文字の効果によって、逆に奥行きへ退く効果を生み出している。ふたつの看板を貫く白抜きの帯は、看板に視覚的な透明性を与えている。

ふたつ看板の色の対比は太陽光による発色と退色のプロセスを示している。顔料は太陽光によって色 彩を生み出すと同時に、太陽光によって少しずつ破壊されていく。絵画が少しでも寿命を伸ばすためにドラキュラのように日光を避けなければならないのはそのためだ。日の光にさらされた看板は色を失い、 白に還元されつつある。変わらない色は存在せず、すべては変化する。しかし、不動産の看板は「不動」の何かを暗示している。